のべ1億件・50社超、わずか2か月で相次ぐ情報漏えい・不正アクセス事例|いま何が起こっているのか?
2026.10.13
2026年8月9日から10月9日までの約2か月間、国内企業や官公庁による情報漏えい・不正アクセス事案の公表が相次ぎました。旅行、交通、小売、外食、人材、出版、金融、医療、ITサービス、官公庁など、業種を問わず発生しています。
本記事では、事案本体と波及先を区別しながら掲載しました。今回は、この約2か月間に何が起きたのかを事例と数字から振り返ります。
目次
この2か月で何が起きたのか
公表規模が明らかな主要事例を単純集計すると、のべ1億件を超えます。一方、件数非公表・調査中の案件や、組織数のみが公表された案件もあります。
集計
同期間に公表された主要事例と重要な続報を整理したところ、影響を公表した企業・団体や利用組織は50社を超え、公表された対象規模はのべ1億件を超えました。
ただし、この数字は「実際に漏えいが確認された人数」ではありません。閲覧・取得された可能性がある情報、漏えいのおそれがある情報、調査中の事案を含み、公表単位も「件」「人」「会員」「アカウント」「レコード」などで異なります。本記事では、各社が公表した対象規模を「のべ値」として集計しています。 また、CommuneやIDCFクラウドのような共通基盤への攻撃では、利用企業が個別に影響を公表しています。本記事では、事案本体と波及先を区別しながら掲載しました。
- 集計期間:2026年8月9日〜10月9日
- 影響を公表した企業・団体等:50社超
- 公表対象規模:のべ1億件超
- 特記事項:IDCFクラウド事案は495組織に影響
主要な情報漏えい・不正アクセス事例一覧
以下は、集計対象とした本体事案・波及事例です。共通基盤や委託先の事案では、影響を公表した利用企業・組織を個別に整理しているため、対象主体は50社・組織を超えます。
企業・サービス |
公表規模 |
概要 |
特徴的な事象 |
Gyazo(Helpfeel) |
約2,362万件 |
利用者データ等が対象 |
画像メタデータ約4.9億件、削除済み画像のメタデータ約1.74億件も流出対象 |
skyticket |
約1,464万件 |
個人情報の流出・流出のおそれ |
約413万件でハッシュ化されたログインパスワードを含む。異なる3経路の事案 |
物語コーポレーション(焼肉きんぐアプリ) |
1,078万8,963件 |
会員管理システムへの不正アクセス |
1,000万件を超える会員基盤が対象 |
第一興商 |
約872万4,000件 |
顧客・従業員情報に漏えいのおそれ |
委託先端末のマルウェア感染を起点 |
ムラウチドットコム |
771万6,811件 |
顧客情報の漏えいを確認 |
ECの顧客情報を保有するWebシステムが侵害対象 |
タイムズカー |
約660万アカウント |
会員情報を第三者が取得 |
本人確認書類を含む情報も対象 |
ブックオフ |
最大約643万件 |
顧客情報を外部取得 |
氏名・住所等に加え、パスワードのハッシュ値も対象 |
TEMAIRAZU |
最大約445万人 |
宿泊予約情報が閲覧・取得された可能性 |
一つの宿泊予約管理基盤への侵入が多数の予約者へ影響 |
バイトル/バイトルNEXT |
最大388万5,771件 |
メールアドレス等に漏えいの可能性 |
氏名・電話番号等は対象外と公表 |
ローソンID |
215万5,345件 |
利用者情報の漏えいを公表 |
ID登録情報に加え、アプリ予約情報も対象 |
IDCFクラウド |
495組織に影響 |
ランサムウェア攻撃 |
495組織へ波及し複数サービスに影響 |
JR東日本(えきねっと等) |
最大約206万件 |
IDCFクラウド事案の影響 |
クラウド基盤事案の波及先 |
イエローハット |
最大約180万人 |
会員情報に漏えいの可能性 |
大規模な会員基盤が対象 |
MrMax |
最大173万5,154人 |
会員情報流出を確認 |
アプリとオンラインストア双方の会員情報が対象 |
ファインズ |
153万6,322件 |
予約システムへの不正アクセス |
大量の予約者関連情報が対象 |
さくらインターネット |
最大136万563アカウント |
会員情報が閲覧・取得された可能性 |
販売管理システムの会員情報が対象 |
JR九州 |
約130万件 |
IDCFクラウド事案の影響 |
クラウド基盤事案の波及先 |
ホワイトエッセンス |
約105万アカウント |
情報の外部持ち出しを確認 |
予約サイトと基幹システムに関係する情報が対象 |
infoQ |
最大94万8,498件 |
個人情報の外部持ち出し |
ポイント不正交換による金銭的被害も発生 |
セイコーマート |
57万2,022人 |
会員情報が不正閲覧 |
公式アプリの会員情報が対象 |
旭化成セラピューティクス |
最大約51万4,000人 |
医療従事者情報が対象 |
医療従事者向けサイトの登録情報が対象 |
OZmall |
最大44万7,610人 |
会員情報が閲覧・取得された可能性 |
予約・会員サービスの情報が対象 |
NewsPicks |
約32.3万件等 |
利用者情報の流出のおそれ |
カード関連情報の一部も対象として公表 |
OfferBox |
最大31万4,009人 |
情報を閲覧できる状態 |
攻撃ではなくシステム設定不備 |
Commune |
約30.7万人 |
顧客データの漏えいを確認 |
共通基盤の侵害が利用企業へ波及 |
デジタル庁GSS |
約24.6万件 |
情報漏えいの可能性 |
VPN機器の脆弱性悪用が侵入経路 |
大起水産アプリ |
17万4,933人 |
利用者情報に漏えいの可能性 |
公式アプリの利用者情報が対象 |
VOISING |
約17万件 |
個人情報の漏えいを公表 |
エンターテインメント分野の個人情報が対象 |
第一生命 |
約12万人 |
従業員・退職者情報に漏えいの可能性 |
顧客ではなく人事情報が対象 |
i-ask(スカラコミュニケーションズ) |
最大5社 |
問い合わせ情報が漏えいのおそれ |
利用する最大5社へ横断的に影響 |
大和証券 |
約11万人・約22万件 |
i-ask事案の影響 |
外部委託先への不正アクセスが波及 |
シチズン時計 |
約10万人 |
i-ask事案の影響 |
外部委託先への不正アクセスが波及 |
リゾートトラスト |
約6.2万件 |
会員・予約者情報の漏えい |
会員情報と予約者情報が対象 |
損保ジャパン |
約6万件 |
i-ask事案の影響 |
外部委託先への不正アクセスが波及 |
東京メトロ(メトポ) |
約5万9,000件 |
会員メールアドレスが対象 |
ポイントサービスの会員情報が対象 |
ハイホー |
38,509件 |
第三者アクセスを確認 |
顧客専用サイトへの不正ログイン |
楽天ドライブ |
1万5,382アカウント |
保存データ等が対象 |
管理用アカウントの認証情報が不正取得 |
JOGMEC |
約8,500件 |
個人情報漏えいの可能性 |
独立行政法人の情報システムが侵害 |
ApplyNow |
利用企業14社に影響 |
採用管理プラットフォームでへの不正アクセスによる情報漏えい |
採用・労務手続き基盤への攻撃 |
吉野家HD(吉野家/はなまる) |
5,366件 |
ApplyNow事案の影響 |
利用する外部サービスを介した事案 |
スズキ |
3,000人 |
Commune事案の影響 |
共通コミュニティ基盤の侵害が波及 |
集英社 |
2,835人等 |
運営サービスに関連する情報漏えい |
出版社運営サービスの個人情報が対象 |
日本経済新聞社 |
1,646人等 |
不正ログイン等 |
Google WorkspaceとMicrosoft 365が対象 |
ヤマハ |
1,600人 |
Commune事案の影響 |
利用する共通基盤の被害が波及 |
イープラス |
1,463件 |
払戻し管理システムへの不正アクセス |
チケット販売本体ではなく払戻し管理が対象 |
HIS |
最大627人 |
パスポート情報に漏えいの可能性 |
パスポート情報を含む |
ニモカ |
521件 |
利用履歴照会サービスへの不正アクセス |
交通系ICカードの履歴照会が対象 |
日本郵便 |
19人・69件等 |
郵便局アプリで不正取得 |
アプリを通じた情報の不正取得を確認 |
ヤマト運輸 |
件数調査中 |
後払いサービスで不正アクセス |
調査中の段階で公表 |
Peach Aviation |
件数非公表 |
メール配信への影響 |
旅程表メール等の配信環境へ波及 |
ワンダーテーブル |
件数非公表 |
ApplyNow事案の影響 |
利用する外部サービスを介した事案 |
らしんばん |
件数非公表 |
個人情報漏えいの可能性 |
ホビー分野の運営サービスが対象 |
※件数は各社の公表表現に合わせています。「漏えいを確認」「第三者が取得」「閲覧・取得された可能性」「漏えいのおそれ」「調査中」では確定度が異なります。同一人物、複数サービス、アカウント数と人数の重複を含む可能性があります。
事例から見える3つの特徴
1.業種を問わず発生している
小売・外食、交通・物流、人材、出版、金融、医療、クラウド、官公庁まで幅広い業種で公表されました。
2.一つの事案が数百万・数千万件へ広がる
Gyazo、skyticket、焼肉きんぐ公式アプリの3事例だけでも、公表対象規模は約5,000万件に達します。
3.共通基盤・委託先を起点に影響が連鎖する
IDCFクラウドへのランサムウェア攻撃では495組織に影響が及び、JR東日本、JR九州、Peach Aviationなどが関連する影響を公表しました。Commune事案でもヤマハ、スズキなど利用企業側へ影響が波及しています。
なぜ「1社の事故」ではなく「連鎖被害」が増えているのか
かつて情報漏えいといえば、自社サーバーや社内システムへの侵入によって発生するケースが中心でした。しかし今回の事例を見ると、被害の発生源と影響を受ける企業が一致しないケースが数多く確認されています。
例えば、IDCFクラウドへのランサムウェア攻撃では、影響が495組織に及んだと公表されました。利用企業側では、JR東日本、JR九州、Peach Aviationなども関連する影響を公表しています。1社への攻撃が、多数の利用企業へ波及した代表的な事例といえるでしょう。
また、Communeへの不正アクセスでは、同サービスを利用していたヤマハやスズキにも影響が波及しました。さらに、TEMAIRAZU、i-ask(スカラコミュニケーションズ)、委託先が起点となった第一興商や大和証券の事例なども含めると、「自社が直接攻撃を受けなくても被害を受ける」ケースが目立っています。
背景にあるのは、企業システムの分業化とクラウド利用の拡大です。現在、多くの企業は顧客管理、会員管理、問い合わせ管理、予約管理、マーケティング、メール配信、分析基盤などを外部サービスに依存しています。また、システム開発、保守運用、コールセンター運営、データ処理などを外部委託しているケースも少なくありません。
その結果、自社のセキュリティ対策だけではリスクを管理しきれなくなっています。仮に自社システムが侵害されていなくても、利用しているクラウドサービス事業者、会員管理や予約管理を担うSaaS、個人情報を取り扱う委託先、認証基盤やメール配信基盤が侵害されれば、自社や顧客にも影響が及ぶ可能性があります。
今回の事例群が示しているのは、「守るべき対象」が自社システムだけではなくなったということです。企業には、自社のサーバーやネットワークを守るだけでなく、利用中のSaaSやクラウドサービスの把握、委託先のセキュリティ対策の確認、有事の連絡体制と責任分担の明確化、サプライチェーン全体のリスクの継続的な見直しが求められています。
「自社は攻撃されなかったから問題ない」という考え方は、すでに通用しなくなりつつあります。今回の50社超の公表事例は、情報漏えい対策がIT部門だけの課題ではなく、委託先管理やサプライチェーン管理を含めた経営課題へ変化していることを示しているのではないでしょうか。
JPCERT/CCも注意喚起。現時点で示されている対策
2026年10月8日、JPCERT/CCは「直近で相次いでいる国内組織における不正アクセスに関する注意喚起」を公開し、10月9日に情報を更新しました。確認されている攻撃類型として、既知脆弱性の探索、API経由の不正操作、MetabaseのSQLインジェクション脆弱性の悪用、アプリケーションサーバーへのWebシェル設置などを挙げています。
注意喚起で示された主な対策は、次のとおりです。
- APIへのアクセス件数を制限し、短時間の反復アクセスや大量実行を防ぐ
- ログイン、パスワードリセット、SMS送信、検索など、悪用リスクが高い機能に個別の回数制限を設ける
- 非公開APIを含む各エンドポイントでアクセス制御を行い、API利用者やトークンの権限を必要最小限にする
- APIトークンに有効期限を設定し、不要または漏えいが疑われるトークンを速やかに無効化する
- 既知の脆弱性を修正したアップデートを適用する
- Webサーバー侵害後の横展開対策、不正アクセス検知体制、検知時の初動対応を見直す
- 不要な管理機能やサービスがインターネットに公開されている場合は公開を停止する
- 保存期間を過ぎたデータや、利用目的を終えたデータを残さない
また、一般利用者向けアプリだけでなく、BIツールや従業員向け管理システムなど、通常は不特定多数からのアクセスを想定していない管理・運用側のシステムについても、同様の点検を行うよう促しています。
JPCERT/CCは、侵害原因や攻撃手法に関する新たな情報が判明した場合には、注意喚起ページを更新するとしています。公開時点で把握されている情報は限定的かつ断片的であり、すべての事案で同じ攻撃手法が使われたことを示すものではありません。企業のセキュリティ担当者は、現時点の対策を実施するとともに、同ページの更新履歴や今後の続報を継続的に確認する必要があります。
※参考文献:JPCERT/CC「直近で相次いでいる国内組織における不正アクセスに関する注意喚起」
https://www.jpcert.or.jp/at/2026/at260030.html
企業が確認すべきこと
今回の一覧が示しているのは、情報漏えいが特定の業種や大企業だけの問題ではないという事実です。問われるのは「自社が直接狙われるか」だけではありません。利用中のクラウド、SaaS、委託先が侵害されたとき、自社のどの業務や情報へ影響が及ぶかを把握しているかが重要です。
技術的な防御に加えて、インシデント発生時の連絡体制、初動判断、委託先との責任分担、顧客への告知、経営層への報告まで含め、平時から対応手順を確認しておく必要があります。
まとめ
2026年8月9日から10月9日までの約2か月間で、影響を公表した企業・団体や利用組織は50社を超え、公表規模はのべ1億件を超えました。
この数字は被害者の実人数ではありません。それでも、短期間に多様な業界で大規模事案が表面化し、共通基盤への攻撃が多数の利用組織へ波及した事実は重く受け止める必要があります。
重要なのは、「自社は大丈夫か」ではなく、「自社または利用中のサービスで明日起きたら、事実を把握し、説明し、対応できるか」を確認することです。
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